一般的にKicadなどのPCBツールは、業者に頼んだり、自分で感光基板をつかったエッチング処理でオリジナルのプリント基板を作成することを前提とした設定&作りになっている。
名刺大サイズの基板などは、業者に頼んでもだいぶ安くなったとはいえ、規格を外れた大きめの基板になると、海外の格安業者でも1万円以上の価格になる。小さい基板で同じ基板を複数枚作成する場合に向いている。
自作プリント基板の場合、感光基板か熱転写方式の後エッチングでパターンを作成する方法になる。これが一番安い。最近では、トナーを専用紙に転写する方式やインクジェット用のフィルムを使ったエッチング処理の手法があるらしい。(以下のURL参照)
昔見た泥臭い作業がなく成功率は高そう。とくにインクジェット方式の場合はトナーのかすれなどがなく再現性が高そうだが、感光基板を使うためコストは高め。熱転写方式は、感光基板を使わないのでコスト低だが、モノクロレーザープリンタやラミネータなどの機材は必要になる。
いずれもそれなりにコストがかかるので、1点ものの完成品を作るときに再検討することにする。
まずやりたいのは、勉強および研究目的なので、ユニバーサル基板&ワイヤー方式での自分なりのワークフローを検討する。
今までの問題点
今までは、論理回路を作成したら、そのまま手配線の作業に移っていたが、配線ミスや部品レイアウトで苦労していた。特に行き当たりばったりのレイアウトで見た目も悪く。配線が複雑になる傾向があった。
また部品によってはリード線がなかったり、ユニバーサル基板の穴に合わない部品(スイッチやDCジャック、各種コネクタなど)の取り付けで、基板加工がワイヤリング中に発生して手間がかかっていた。
当たり前ではあるが、作業に取り掛かる前にどんな部品をどこに配置するかの検討が必要ってことである。
普段はKicadを好んで使っているので、==プリント基板エディタ(Pcbnew)==を使ったユニバーサル基板&手配線を前提とした設計ができないか検討する。Kicad関連で調べても、当たり前かもしれないが、ユニバーサル基板を使った作業手順がまったくない。ベストかどうかはともかく、自分で腑に落ちた方法を検討していく。
ユニバーサル基板のおさらい
- 基板サイズ
サイズ、パターンも様々あるが、手に入りやすいサイズなどをまとめる。
(特にふれない場合、すべてピッチは2.54mmとする)
基板サイズ[mm] | 穴数 |
---|---|
大 210x155 | 78x55 |
中 155x114 | 55x40 |
小 95x72 | 36x27 |
カード 72x47.5 | 27x17 |
- ランド寸法
メーカーによって微妙な差はあるが、誤差の範囲と考える。
基板の端から最初の穴までのマージンは大体6㎜前後で、四隅にはほとんどの基板でねじ止めのM3用のネジ穴がある。またパターンも電源バスが入っていたり、表面実装用のパッドがあったり、ブレッドボードを模したものまであるが、今回検討するボードは標準的な穴が開いているだけのものとする。
パラメータ | 寸法 |
---|---|
穴径 | Φ0.9~1.0 |
ランド径 | Φ1.2~1.4 |
ネジ穴 | Φ3.0~3.2 |
仕上げ | 片面または、両面。両面の場合、スルーホールが多い。 |
ちなみに上図の基板だと、52x33穴になる。
プリント基板エディタでは、何を設計するのか?
手配線の場合、絶縁されたワイヤを部品の隙間に這わせるので、線が重なってもショートしないので、自由にワイヤリングできてしまう。適当に配線しても回路図通りの配線ができれば動作してしまう。しかしそうすると配線ミスやノイズ干渉による誤作動が発生する恐れがある。
じゃあKicadのプリント基板エディタ(Pcbnew)では、なにをやればいいのか?をいろいろ考えたところ、とりあえず、プリントパターン設計ではなく、部品レイアウトおよびワイヤーの経路設計ができれば良いという結論になった。
基板設計ができたら、プリントパターンを印刷して、それを見ながら手配線すればミスもなくなるはずである。
Pcbnewの基本設定
- レイヤセットアップに関して
使わないレイヤはあらかじめ非表示にして、必要最小限にしておく。シルク印刷は当然しないが、部品レイアウトの検討で必要になる。
レイヤ名 | 内容 |
---|---|
F.Cu | 両面基板の場合、おもてのはんだ面になる。被覆のあるワイヤはここが経路になる。 |
B.Cu | はんだづけする面。ワイヤのはんだ付けはここで行う。 |
F.SlkS | 部品実装側のシルク印刷面。 |
B.SlkS | はんだ面側のシルク印刷面。 |
Edge.Cuts | 基板の外形線を引くレイヤ。 |
- パッドの設定
デフォルト値は以下になる。
デフォルト値 | 寸法 |
---|---|
シルク印刷 | F.SlkS |
ドリル径(円形スルーホール) | 0.762mm |
ランド径(円形スルーホール) | 1.524mm |
ランド径(SMD四角) | 1.524x1.524mm |
パッドは、ユニバーサル基板のものに合わせて設定する。
ユニバーサル基板 | 寸法 |
---|---|
シルク印刷 | F.SlkS |
ドリル径(円形スルーホール) | 0.9mm |
ランド径(円形スルーホール) | 1.4mm |
ランド径(SMD四角) | 1.4x1.4mm |
としておく。
Pcbnewのネットクラスおよびカスタム配線幅の設定
実際に使用するワイヤーの径に合わせる必要はない。先にも述べた通り、プリント配線ではないので、重なっても被覆があるのでショートしない。(もちろんノイズなどは考慮するとなんでもいいわけではないが)
ただしPcbnewでは、自動的に異なる配線が重なる場合やクリアランスに交差する場合は、配線させないようになっている。このためこのチェックをONにしたままとする場合、配線幅・クリアランスは細めに設定して、配線経路に融通を利かせることにする。(ワイヤなので、プリント配線よりも実際に融通が利くので)
あと、配線の経路は基本的に表面(F.Cuレイヤ)とし、部品とのはんだ付けは裏面(B.Cu)とする。
このため、部品のピンそばの穴を通して、表面から裏面にワイヤリングすることになるが、この表現はビアで行う。ビアの径はユニバーサル基板の穴と同じとしたいところだが、他の線と重なると配線できなくなり邪魔なので、配線幅と同一として最小限としておく。
デザインルールエディタのグローバルルールに関して、最小配線幅、最小ビア径などを以下のように設定しておく。
設定 | 寸法[mm] |
---|---|
最小配線幅 | 0.25 |
最小ビア径 | 0.25 |
最小ビアドリル径 | 0.2 |
カスタム線幅 | 0.25、0.5 |
ネットクラスの設定は、下図のように最小値の構成としておく、別の太さのワイヤが必要になった場合は、適宜線幅を変更することにする。==クリアランスは小さい値(0.01mm)==とする。
電源およびGNDについて
電源ラインについて以下のサイトが参考になる。
一般的にユニバーサル基板での実装だと、GNDもワイヤ接続になるが、プリント基板のように可能なら、ベタGNDとしたい。銅箔テープを使ってベタグランドを再現している例もいくつかあるので参考にしたい。
ユニバーサル基板のフットプリントについて
グリッド設定で2.54mmピッチとしていれば、なくても問題ない。一応フットプリントとして表現するにはどうしたらいいかも検討してみた。
最初はパッドを並べて・・とやってみたが、繋がっていない配線が上を通過することができないので、図形の円で表現することにした。描画するレイヤの設定は裏面側(B.Slks)とした。
使用する基板と同じ縦x横に円形状を並べたものを、その基板のフットプリントとして作成する。
実際に設計してみる
上記を踏まえて、以下のような回路図に対してプリント基板設計してみる。
まず部品のレイアウトを決める。プリント配線よりもある程度自由度はあるかもしれない。
利用するユニバーサル基板のサイズ、穴をカウントし、同じ大きさ・数のパッドを表現した円を作成したフットプリントを配置する。
はんだ付けは裏面のB.Cuレイヤ、配線は表面のF.Cuレイヤで行う。まずICの電源ピンを裏面から開始する。
実際の表と裏の配線の行き来は、ユニバーサル基板の穴を使うが、Pcbnewでは貫通ビアを使って表現する。
ユニバーサル基板の穴まできたら、コンテキストメニューを表示して、"貫通ビアを配置"コマンドでビアを作成する。
基本的に"穴から穴"へ配線を行っていく。実際の配線をイメージしながら、実現不可能な配線になってないかチェックしながらルート設計する。以下の場合だと、縦方向(赤)が表面、横方向(緑)が裏面を通過することになる。
ほかの箇所の例、表面(赤)の縦方向の配線は、実際は束なった状態になるかもしれないが、可読性向上の意味も込めて、接触しないように配線する。なので、本数が増えていくと、実際には配線可能なのに、==設計上では配線不可能(重なってしまうので)==という事態にもなりかねないが、そこは「設計できない配線はしない」と割り切ってやってみることになる。
GND以外が完成した状態が下図になる。"+5V"から真下に伸びている太い配線は、電源バスをイメージしている。実際には、錫メッキ線をまっすぐに伸ばして、ランドにはんだ付けすることになる。
次に、十分なエリアがあれば、ベタGNDを作成する。(なければ、GND配線にする)
塗りつぶしゾーンコマンドを選択すると、十字マーカが表示されて、最初の描画ポイントをプロットすると、導体ゾーンのプロパティパネルが表示される。
このパネルで、どの導体ゾーンに対して描画するのか、どのネット(一般的にはGNDぐらいしか選択しない?)に対して行うのかを選択する。また、クリアランスをどれだけとるのかを指定する。他の配線と交差する場合、自動的によけて塗りつぶしエリアを作成してくれる機能だが、本設計では、そもそも被らないようにエリアを描画するので、クリアランスは0mm、最小値は0.1mmとしている。
先にも述べたが、実際にはベタGNDは銅箔テープを使って表現するので、あまり複雑な形状は作成できない。カッターナイフで切り抜ける自信があるだけの複雑さのエリアを描画する。
ベタ塗りした結果が下図になる。デフォルトのサーマルリリーフにしているが、この部分の形状は実際にカッターナイフで切り抜くときに考えることにする。
3Dビューアーで見た状態。表面の配線がワイヤになるイメージ。実際にはユニバーサルボードなので、穴だらけになっているはずだが、そこまでの表現はできない。(Kicadはパッドかビアでしか穴が開かない)
裏面が下図になる。太い配線が錫メッキ線で、ベタが銅箔テープ、それ以外はワイヤになるはずである。
(その他) ワイヤの電流容量
配線幅についての検討のついでに、実際のワイヤの許容電流リストを残しておく。
より線については、もう少し電流値を低く見積もる。
AWG(単線) | 直径 [mm] | 許容電流 [A] |
---|---|---|
30 | 0.254 | 0.8 |
28 | 0.320 | 1.4 |
26 | 0.404 | 2.2 |
24 | 0.511 | 3.5 |
22 | 0.643 | 7 |
(余談) スマホで顕微鏡撮影 ハルスコープ(HULSCOPE)について
ちなみに、ランド径に関しては、ハルスコープという簡易レンズをiPhoneに張り付けて、専用アプリで撮影&測定したもの。値段も安く、なかなかおすすめである。
専用アプリでは、予めキャリブレーションしておくと、ピンとが合ったところのサイズが測定できる。精度はそれなりしかないが、悪くはない。
使わないときは、専用キャップで保管できる。場所とらなくて気に入っている。