DLP式3Dプリンタを使ったPCBプリント基板作成

DIYによるPCB作成は様々な方法があり、ポイントとなるのがパターンのレジスト方法です。昔からある方法としては、レーザープリンタを使ったトナー転写ですが、どうもトナーの種類や転写する紙の選択で左右されやすいみたいです。(アセトンによる転写もある)筆者はレーザープリンタを持ってないので、コンビニや会社でやるとしても、すぐさま転写できないので現実的ではないです。

CNCフライスによるVカッターでの方法も以前模索していますが、いろんな問題点があって専用機を用意しないとダメな感じでした。どうにかならんかなぁ。。とネットを見ていたらドライフィルムという、業者が基板作成に使うレジストフィルムがネットで安く購入できるとのこと。

この方法は、OHPフィルムのようなものにインクジェットプリンタでパターンを印刷してドライフィルムと重ね合わせてUVランプで感光させる方式で、ハードルはそれほど高くないし、変な職人技もなさそうです。が、自宅のインクジェットプリンタが調子が悪くキレイに印刷できず試せない。。

https://www.tnksoft.com/blog/?p=6956
http://www.yacc.co.jp/~uarc/make-pcb.pdf

UVでフィルムを感光させる」ことができれば良いわけで、ピンと来たのが自宅にはDLP方式の3Dプリンタがあります。モニタにパターンをUVランプで表示すれば。。というわけでやってみました。

使った道具

今回の主役となる道具が以下の2点。DLPタイプの3Dプリンタなら何でも良いです。SLAでも良さそうですが持ってないので未検証。ラミネータは本来の使い方と違うので、壊れる可能性があります。低温設定できるアイロンでも良いかもしれない。

ドライフィルムは、感光してない膜は弱アルカリで溶けて、感光した部分は強アルカリで溶けるらしいです。今回は過炭酸ナトリウムを水に溶かして使いました。もっとアルカリ性の強い炭酸ナトリウムは、実際のPCB製造の現場で使われているみたいです。薄めのこの溶液で感光されてない部分と溶かします。完全にドライフィルムを除去するときはアセトンでやりました。(最近amazonでアセトン売ってないのはなぜ?)

レジストされていない銅を溶かすためのエッチング溶液ですが、一般的には塩化第二鉄液を使いますが、下水道にそのまま流せないなど扱いづらそうなので、オキシドール、塩、クエン酸を混ぜた溶液を使いました。塩化第2鉄より反応は鈍いですが、安全にやれます。

https://media.dmm-make.com/item/873/

ちなみに溶液の主成分のPHを表にしてみました。

薬剤 PH 備考
クエン酸(citric acid) 2.1 銅板のエッチングで使用する
純水(water) 7.0 中性。クエン酸PHとおおよそ4.9、過炭酸ナトリウムPHとおおよそ3.5の差。
1.4:1の割合
過炭酸ナトリウム(sodium carbonate peroxyhydrate) 10.5 濃度を調整してドライフィルムの剥離

PCBパターンの作成

前回PCBパターンを必死に3D化していた訳は、どうにかDLPプリンタで表示したかったのが理由です。前回の方法でKiCADからパターンを3D化できます。

KiCADのDXFがFusion360で押し出し(Extrude)できない件

スライサでこの3Dモデルをスライスしてプリンタで表示してみます。

今回はレジンパットは不要なので退けます。

photon-pcb01

Photon-Sの造形エリアが以下です。この大きさの基板まで作成できます。ちょっと小さいけど、個人的には問題なし。

photon-pcb02

印刷実行した結果。とりあえず想定通りの結果です。ドライフィルムの準備をします。

photon-pcb03

ドライフィルムを銅板に張り付ける

ドライフィルムを適当にハサミで切ります。(感光しないように遮光して作業したほうが良いです)

フィルムは感光膜の両側に透明のシートが貼り付いてます。内側(カールしている内側)をテープで引っ張るようにして剥がします。コツがあって剥がすというよりも、テープで貼り付けて引っ張って延ばす感じです。

剥がしたら、気泡が入らないようにして貼り付けます。気泡が入ったら表面からピンで刺して空気抜いても良いかも。

photon-pcb04

外側の透明シートはまだ剥がさないです。

photon-pcb05

ラミネータでやったときの写真がないので、アイロン使った時の写真を載せときます。中と低の間ぐらいが良いかもです。

photon-pcb06

直接当ててぐりぐりやると失敗するので、1枚メモ用紙を挟んで加熱圧着します。感光膜を溶かして銅板に密着させるのが目的です。割と重要な工程です。加熱が弱いと現像したときにはがれて失敗しやすい気がします。

photon-pcb07

DLPプリンタで感光&現像

とりあえずスライサで最初のレイヤのBottom Expose Timeを180secに設定してデータを作成して印刷します。1層目のプリントが終わったら、途中で印刷を中止します。

photon-pcb08

こんな感じに感光されます。外側の透明フィルムを剥がします。感光膜が破れたり剥がれないように注意しますが、ここで剥がれたり、破れる場合は加熱圧着が不十分です。

分かりづらいけど、配線幅は1㎜、0.8㎜、0.4㎜、0.2mmぐらいだったような。。上部のフットプリントは0.8mmピッチと0.5mmピッチです。ここまでできれば申し分なしです。

photon-pcb09

過炭酸ナトリウムの溶液(重量比で1~3%ぐらい)につけてレジストされてない膜を除去します。割と反応は早いです。下図は筆でぐりぐりやってますが、露光時間が短いとレジストパターンまで切れたりするので注意。

photon-pcb10

エッチング

塩小さじ1、クエン酸小さじ4ぐらいの量で、オキシドールは100mlぐらいの溶液を作成して銅を溶かします。筆者はヒートガンで40度ぐらいまで加熱して反応を促しました。40度ぐらいに温めたほうが反応が促進します。また銅板表面の泡は容器ごと揺らして除去したほうが反応が早く済みます。

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作成結果。レジストされた配線間の膜が落ち切ってないので、繋がってしまったけど、DLPプリンタを使たPCBパターン作成の検証はとりあえず「できる」と言えます。

photon-pcb12

もう少し大きい基板

もう少し大きい回路を作成してみます。配線幅が1mmと0.5mm、ベタGNDの最小ピッチが0.25mmの基板です。

photon-pcb17

感光直後の基盤。Photon Workshopスライサの設定はBottom Expose Timeが100secです。

photon-pcb13

現像中の写真。パターンが浮き出てきます。

photon-pcb14

エッチングまではしてないです。指でグリグリして剥がれなければ、エッチングは問題なくできると思っています。この方式の問題は現像にあります。

photon-pcb15

狭ピッチ(0.25mm)の部分が埋まってしまいます。配線がCAD寸法よりも太って埋まってしまう箇所が出てきます。トナー転写のようなレジスト面がポロポロ剥がれてしまうことはないのですが、狭ピッチが埋まってしまう現象が起きます。それ以外はキレイに現像できます。

photon-pcb16

今回の検証まとめ

DLPプリンタとドライフィルムを使ったPCB作成はできます。ただいくつか弱点があります。

  1. 感光時間はスライサのBottom Expose Timeで調整すれば好きな時間感光できる。
  2. 解像度はDLPプリンタの解像度に依存する。
  3. Expose Timeが短いと現像、エッチング時に剥がれやすくなるが、CAD寸法を忠実に再現できる。
  4. Expose Timeが長いと丈夫なレジストが作成されるが、配線が太って狭ピッチが埋まる。
  5. エッチング工程はドライフィルムの実例はいくつもあり、それと変わらない。
  6. プリント基板データを3Dのモデル化するのが手間がかかる。

問題は4番と6番です。

6番はKiCADを使う場合、DXFかSVG形式でエクスポートしてどうにか3D化しますが、Fusion360のスケッチはものすごく便利機能満載ですが、これがアダとなって小さな回路データでもインポートすると激重&閉ループに失敗するなどチマチマ調整が必要です。BlenderでSVGから押し出す方法もあります。ただKiCADのSVGだと配線がアウトライン化されないです。DXF => SVG => Blenderの方法が必要ですが、未検証です。やれなくはないですが、わざわざ3D化ってのもスッキリしない印象です。

4番はおそらくDLPプリンタの構造上制限だと思います。通常インクジェット方式の場合、パターン印刷したOHPフィルムとドライフィルム&基板は密着させて、更にガラス板などでしっかりサンドして、感光させます。そうしないと、隙間から光が漏れて狭ピッチが感光してしまうからです。
DLPプリンタの場合、プロジェクタのようにスクリーン映像を基板に投影するわけですが、距離があるので、光が漏れている気がします。なのでBottom Expose Timeを増やすとどんどん配線幅が太くなります。

下の画像は、筆者の目標としている「0.5mmピッチ、0.3mm配線をどうにか再現したい」をターゲットにしたテストです。画像下部が0.5mmピッチの変換基板の比較画像です。

Expose Timeを短くすると剥がれるので、150secあたりに設定して、太る現象を見越して配線幅を0.15~0.3mmぐらいにしてテストしてみました。

DLPプリンタで現像すると、感光レジストされた周辺も残ってしまいます(漏れた光で固まっていると思う)。ゴシゴシやり過ぎると、レジストパターンまで切れてしまいます。0.15mmぐらいまで細くすると、現像してちょうど0.3mmぐらいになりますが、パターンが切れやすくなり、太くしていくと切れないけどピッチが埋まってしまう感じです。DLPプリンタでは、0.5mmの狭ピッチは無理かな?と感じます。

photon-pcb18

プリント基板の配線は太い分には電気的には問題ないし、使用するフットプリントのピッチをショートしないように表現できれば良いと割り切ったときに、高い成功率で基板作成できそうなのは、色々やった感じでは、以下じゃないかなと思います。

Parameter 最小値 備考
Bottom Expose Time[s] 150 長ければ長いほど強固なレジストが作成できるが、太くなっていく
配線幅[mm] 0.5 切れやすい場合は、可能な限りExpose Timeを長くする
クリアランス 0.5 埋まってしまう場合は、可能な限りExpose Timeを短くする

試行したテスト結果いろいろ

ごく小さい範囲であれば、以下のように狭ピッチでもできなくはないけど、成功率は低めで実用的ではないです。

  • 左上が0.5mm幅の0.8mmピッチ(クリアランス0.3mm)
  • 右上が0.3mm幅の0.5mmピッチ(クリアランス0.2mm)
  • 左から3x4mm, 2.5x3mm, 2.5x2.5mm, 1.5x2.5mm, 1.5x1.5mmのランド

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左下が0.5mm幅の0.8mmピッチ(クリアランス0.3mm)と0.3mm幅の0.5mmピッチ(クリアランス0.2mm)の線です。0.5mmピッチの線は繋がってます。文字がそれ以上に細い線ですが、切れてます。

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総括

限定した基板サイズ、精度、作成頻度であり、DLPプリンタを持っていれば、こういうやり方もありかな?という感じです。スルーホールの小さい基板であれば十分実用的ですが、狭ピッチのICや表面実装を多用した本格的な基板には向かないかな?と思います。

試行中に誰かほかにやってないかな?と検索したらやっぱりいました。この人はExpose Timeが10minsでやってます。クリアランスがかなり広めであれば、気にせず時間を長くして成功率UPできそうです。

https://blog.hackster.io/how-to-etch-your-own-pcbs-with-a-dlp-3d-printer-d65940570536

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